2019/10/10 肖敏捷の中国メモ:金融担当副省長が急増する背景について

米中貿易交渉をめぐって、「サウスチャイナ・モーニングポスト」など、「中国屋」以外の皆様にとってあまり聞きなれない香港系メディアの報道に翻弄されるなど、熾烈な情報戦が繰り広げられている。真偽が分からないため、固唾を飲んで見守るしかない。気分転換を兼ねて、今回は米中貿易交渉と関連のない一つの話題をご紹介したい。 

中国の地方政府では、「省委書記」(共産党書記)の指示に基づいて、行政のトップとして省長が日常的なオペレーションを統率している。省長の下には複数の副省長のポストが設けられている。副省長たちは、それぞれ工業、農業、教育、衛生などの担当を任せられている。言い換えれば、国防や外交などを除いて、中央政府の国務院とほぼ同じ権力構造となっている。 

最近、話題となっているのは、金融担当副省長というポストを設ける地方政府が急増していることだ。中国の「第一財経」によると、現時点では、19の地方自治体は金融担当の副省長を任命し、残りの地方自治体も対応を急いでいる。その顔ぶれをみると、大手国有商業銀行から副頭取クラスの大物が次々と任命され、しかも、1970年以降生まれがほとんどだ。 

中国では、銀行を含む大型国有企業の経営トップは、中央政府から任命されているため、省長と同レベルの部長級(大臣級)の待遇を受けている大物が少なくない。したがって、政府と国有企業との間の人材交流が日常茶飯事にすぎない。しかし、金融担当といったポストを新設するのは珍しい。 

これについて、「第一財経」は、金融センターをめぐる地方政府の競争が激化し、専門家を招いて戦略を練ることが重要視されていると分析している。また、中国版ナスダックの発足に伴い、上場企業の育成など、地方のイノベーションを加速させるのも一つの狙いだろう。さらに、香港情勢の激変を踏まえ、深圳を国際金融センターに育成することが喫緊な課題として浮上してきたため、これは、国際金融センターを目指す上海や重慶などの地方政府の危機感に拍車をかけたと考えられる。 

一方、地方政府の中では、経済成長を最優先する「イケイケどんどん」タイプがほとんどだ。その結果、地方政府の債務規模が急速に拡大している。経済成長が減速に向かっている中、いかに金融リスクの増大を防ぐのか、あるいは不良債権をどう処理するのか、金融担当の役割がますます重要となってきたのは実情だ。 

米中貿易協議について、アメリカが重ねて求めているのは、金融資本市場の対外開放だ。これについて、中国も保険や証券などに関する外資出資規制を前倒しに実施するなど、前向きな対応をみせている。30年前に、製造業など外資系企業の進出を誘致する地方政府の役人たちが活躍していたが、今後、金融担当の政府役人たちの出番が増えるかもしれない。

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