2019/11/12 肖敏捷の中国メモ:日本でも注目の的となっている深圳経済について

今朝、テレビ東京の「モーニングサテライト」に出演させていただきました。その際、日本でも注目の的となっている深圳経済についてコメントを述べたが、ここで改めて要点を整理し、ご参考になれば幸甚です。 

 中国の景気減速、米中貿易摩擦、香港問題など、中国に関する話題が依然絶えない中、最近、中国で話題となっているのは深圳だ。中国の中でベンチャー企業の輩出やハイテク産業の発展など、おそらく最も活力のある都市として、グローバルから注目を集めている。また、日本から深圳詣での見学ツアーなども絶えず、深圳はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている。 

しかし、「他人の芝生は青い」という日本人の皆さんの羨望のまなざしとは裏腹に、深圳の失速が話題となっている。そのきっかけは、先日発表された経済指標だった。深圳市統計局によると、1-9月期の深圳の実質GDP成長率は前年同期比6.6%増と、全国平均を上回ったものの、昨年同期の8.1%増を大幅に下回った。もちろん、GDP成長率の鈍化ならサプライズ何でもないが、その景気減速の背景を探ると、深圳が直面している深刻な課題が見えてくる。同時に、程度の差こそあれ、これらの課題は中国のほかの大都市、あるいは中国全土も抱えているのではないかといえる。

 

米中摩擦はアメリカと深圳の摩擦

その一つの課題は、米中貿易摩擦や香港問題の影響が顕在化していることだ。米中貿易摩擦と言っても、アメリカ対深圳の戦いと言っても過言ではない。華為、ZTEなど今回の貿易摩擦に巻き込まれた深圳系企業があまりにも多いためだ。その結果、1-9月の貿易総額は2018年の9.9%増から1.8%減に転じ、それに伴い、鉱工業生産額も同8.3%増から5.3%増へと大幅に鈍化した。また、香港と陸続きしているため、ヒト・カネ・モノの流れも香港の抗議デモの影響を最も受けやすい可能性も否定できない。例えば、1-8月、深圳のホテル稼働率は63.6%と、20181-9月の68.7%を下回った。 

もう一つの課題は、民間投資の減速だ。1-9月、固定資産投資額のうち、民間投資が前年同期比3%増と、20181-9月の11.7%増、20171-9月の33.6%増に比べて大きく鈍化した。華為やテンセントなど中国を代表する民間企業が輩出している深圳では、民間企業の投資がなぜ急減速しているのか?いうまでもなく、米中貿易摩擦の激化が投資心理の悪化につながっている可能性が高いが、深圳の不動産価格の高騰で、企業や人材が深圳を敬遠し始めている恐れもある。 

 

1平米100万円強の住宅価格

「中国房価行情網」によると、201910月、深圳市の住宅販売価格は65364/㎡で、北京や上海を抑えて堂々の中国一となっている。しかし、1平米あたりの販売価格は日本円にすると100万円強、100平米の住宅を買うには約1億円が必要だ。いくら高給取りの富裕層が多い深圳と言っても、「億ション」に手を出すことができる若者たちはあまりいないはずだ。同様、工場や商業施設の価格も高騰し、企業にとっても深圳でのビジネス環境がどんどん厳しくなっているのではないかと考えられる。 

内外から人材や企業を誘致し、投資やイノベーションの促進を通じて、中国経済の構造転換を加速させたいのが深圳をはじめとする各地方政府の共通の狙いだ。しかし、不動産開発に頼ってきた結果、不動産価格の高騰が構造転換の大きな阻害要因となっている。短期的には、米中貿易協議や中国の景気刺激策が注目点だが、中長期的には、中国経済が不動産依存から脱皮することができるかどうか、不動産バブルのソフトランディングの実現にかかっている。その一つのきっかけとなりうるのは、ベイエリア構想(香港+マカオ+広東省の一体開発)の進展かもしれない。


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