2020/01/06 肖敏捷の中国メモ:米中摩擦を契機に中国経済の外需から内需への転換が一段と加速

改めて明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

116日の545分から、テレビ東京の「モーニングサテライト」に出演しました。米中の第一段階合意の署名式が終了したばかりで、情報が飛び交っている最中、佐々木キャスターをはじめ、番組の皆様の迅速な対応にすっかり感心しました。また、歴史的な節目で番組出演できたこともいい思い出になると思います。

今朝の番組では、米中摩擦を契機に中国経済の外需から内需への転換が一段と加速するとの見解を示しました。主なコメントは下記の通りです。

 

全人代の季節:外需から内需への転換がさらに加速へ

 

毎年の35日、中国の全国人民代表大会(全人代)が開幕することとなっている。向こう1年間、経済成長率目標から財政予算案まで、中国経済や社会の発展や課題解決について、約十日間の会議で政策決定が行われるため、中国経済の先行きを読み解くには、全人代のチェックが欠かせない。

一方、35日、北京で全人代が開幕するまでには、地方自治体レベルの「全人代」が開催される仕組みとなっている。31の省や自治区、直轄市のなかでは、その大半が1月中、「全人代」が相次いで開催され、足元では、「全人代」ラッシュが続いている。では、地方自治体の「全人代」からどのようなメッセージが読み取れるのだろうか。

一党独裁の中国では、経済に対する共産党指導部や中央政府の統制力が極めて強い。地方自治体レベルの「全人代」とはいえ、上意を十分忖度したうえで、それぞれの政策目標を定めるのが常識だ。したがって、地方政府の「全人代」から、3月の全国レベルの「全人代」の方向性をかなりの精度で先読みできるのではないかと考えられる。ここでは、114日に開幕した広東省の「全人代」から、今年の中国経済の課題と解決策を探ってみたい。

 

(高成長から中低成長へ)

開幕式で行われた省長の「政府活動報告」から、下記のポイントを指摘することができる。

まず、成長率目標が引き下げられること。2019年、広東省が打ち出した成長率目標は6.06.5%だった。これは、中央政府と歩調を合わせていた目標値だった。2020年について、広東省は6%前後の成長率を目指すと、実質的には、6.5%から6.0%へ引き下げた。なぜ、成長率目標を引き下げたのか?昨年、広東省の名目GDP10兆元(約160兆円)を超えたことで、成長率が鈍化してくるのは当然のことだが、2019年の主な経済指標の目標値と実績値をみると、その原因が見えてくるかもしれない。

2019年の実質GDP成長率が6.3%と、目標圏内に着地したが、固定資産投資額の伸び率が目標を超えたのを除いて、小売総額が7.9%増と目標の8.5%増を下回ったほか、輸出入総額が0.3%減と、目標の3%増から大きく乖離した。0.3%減と小幅に聞こえるかもしれないが、名目GDP10兆元にくらべて、輸出入総額が約7兆元と、貿易依存度が70%を超えた広東省にとっては、無視できないインパクトだ。米中貿易摩擦が「世界の工場」に打撃を与え、それが、雇用や個人消費などに影響を波及し、経済成長率の鈍化につながったといえる。2020年について、広東省が輸出入総額の伸び率がプラスに転じるよう、努力目標を掲げたが、不確実性が高いため、成長率目標を引き下げたのではないかと考えられる。

 

(広東省仏山市からみた内需拡大の方向性)

では、増大する景気の下振れリスクをどう防ぐのか?「政府活動報告」の中では、広東省は広東省~香港~マカオといったベイエリアの開発や鉄道や高速道路などのインフラ整備の加速、イノベーションや先端製造業の更なる発展、規制緩和などによる企業の経営環境の改善や税負担の軽減などの対応策が盛り込まれた。しかし、いずれも新味が欠けているが、注目すべきなのは、広東省省長は、広州市と深圳市を除いて、広東省内の都市戸籍の取得に関する規制を大幅に緩和すると発表したことだ。2018年、中国の都市化比率のランキングをみると、広東省は北京や上海などに大きく遅れていることが分かる。

都市戸籍制度の自由化で何が変わるのか?中国のほかの地域からの人材流入が期待できるほか、省内の人口移動がさらに活発化し、不動産市場や個人消費にもプラスの寄与効果が見込まれる。1月上旬、私は、広州市と隣接している仏山市を約10年ぶりに訪問したが、度肝が抜かれるほどの変貌ぶりだった。地元政府に聞くと、広州市から100万人を超える人口が仏山市に定住していることが一つの原因だそうだ。都市間を繋げる地下鉄や電車がどんどん便利になるにつれ、住宅価格の高い広州や深圳を避けて、その周辺に居住し、通勤する人が増えている。まさに、日本の首都圏モデルの再現だといえる。

このように、米中貿易摩擦や過剰債務などの課題を背景に、2020年以降の中国経済が鈍化する方向に向かうのは想定内のことだ。116日、米中が第一段階の合意に署名したものの、一時停戦にすぎないとの見方が定着しているため、「自力更生」でハイテク技術の開発を急ぐほか、都市化の更なる加速で内需の裾野を拡大させ、中国経済の持続成長を目指すのは、広東省だけでなく、中国全般の政策姿勢ではないかと考えられる。米中摩擦を契機に、外需から内需へ、この大きな方向転換がさらに加速していくだろう。


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