2020/02/17 肖敏捷の中国メモ:新型肺炎による中国経済への影響、及び今後の課題
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- カテゴリー: CHINA REPORT
今朝、テレビ東京の「モーニングサテライト」に出演させていただきました。その際、新型肺炎による中国経済への影響、及び今後の課題についてコメントを述べたが、ここで改めて要点を整理し、ご参考になれば幸甚です。
一、 景気への影響
湖北省などでは、感染者数が増え続け、移動制限が解除された後、大規模な人的な移動に伴い、感染が再び拡大する可能性が否定できない。こうした中、ヒト・モノ・カネの流れが遮断され、中国景気あるいはグローバル景気への影響が一段と深刻化するだろう。
一方、株式市場などの動きからみれば、新型肺炎による景気へのダメージが限定的との楽観論が広がっている。また、IMFなどの国際機関も新型肺炎の影響が一時的で中長期的に中国経済が再び力強い成長を取り戻すと表明している。確かに、足元では、中国政府が財政と金融の両面から大規模な景気刺激策を次々と打ち出しており、新型肺炎が沈静化すればその効果が一気に顕在化するかもしれない。
しかし、中長期の展望はともかく、足元の中国経済がこの危機をどう乗り越えるのか、とりわけ、雇用の受け皿となっている数多くの民営企業が新型肺炎の鎮静化を待たずに、倒産に追い込まれるリスクに直面している。また、SARSやリーマンショックなどの危機が起きた後の状況を振り返ると、大規模な景気刺激策の恩恵は国有企業に集中し、必ずしも民営企業に及ばないことも指摘したい。新型肺炎が沈静化した後、中国では、大規模な雇用危機が起きないのか、中国の個人消費がさらに萎縮しないのか、そのリスクの顕在化を覚悟する必要がある。
では、足元では、新型肺炎による中国企業へのダメージがどの程度のものなのか?いうまでもなく、政府の公式見解はないが、ここでは、民間が行った一つのアンケート結果をご紹介したい。結論から言うと、未曽有の危機が既に起きている。
深圳博商会が深圳の小売業界を対象に行ったアンケートによると、春節期間中、50%以上減少と回答した企業が46%、10%~50%の減少と回答した企業が32%、10%以下の減少と回答した企業が9%。マスクなどの肺炎特需で売り上げが急増した一部の企業を除いて、小売業がほぼ全滅だと言わざるを得ない。武漢から遠く離れている深圳ですらこんな惨状なので、厳しい移動の規制が実施されているほかの地域の状況も推察できる。
また、キャッシュフローなどの体力からみれば、足元の大不況をどれくらい耐えられるのかの質問に対し、44%の企業が3か月以内、29%の企業が3~4か月だと回答。ドミノ倒れが起きないのか、夏までは正念場だ。
二、 新型肺炎で浮き彫りとなった中国のアキレスけん
17年前のSARSを契機に、情報開示、医療制度の改革、生活習慣の改善など、様々な課題が提起されたが、17年後、ほとんど何も改善していなかったことは、今回の新型肺炎で改めて浮き彫りにした。したがって、今回の新型肺炎でいろいろな変化が起きるのではないかとの期待が再び高まっているが、のど元過ぎればと相変わらず大きな変化が期待できないと言わざるを得ない。
17年前と比べて、グローバル経済に対する中国経済の影響力が格段に高まってきた。新聞などでは、中国のAIやロボットがすごいと称賛する声も絶えず、この17年間、中国は経済大国の地位を獲得したことは疑う必要がない。ただし、急速な経済発展と比べて、社会発展が大きく遅れていることは実情だ。社会発展を図る指標は様々だが、SARSや新型肺炎といった感染病で国が機能不全に陥ってしまうのは、一部の中小規模の発展途上国なら珍しくないが、世界第二位の経済大国では異例中の異例だ。
その一つの原因は、医療システム整備の遅れだ。日米中の名目GDP規模からみれば、中国の経済成長が破竹の勢いで拡大を続けていることが見て取れる。しかし、保険医療に対する財政支出がGDPに占める割合からみれば、アメリカや日本を大きく下回っている。経済成長の成果は国民福祉に十分還元しているかどうかは、疑問だ。新型肺炎が起きなくても、医療に対する国民の不満が常に高まっているのは実情だ。
経済成長は、国民によりいい生活を与えるのが究極的な目標だ。経済発展と社会発展が車の両輪で、経済成長なかりを追求し、社会発展を疎かにすれば、経済成長も止まってしまう。これは、今回の新型肺炎が中国に鳴らした警鐘だ。
以上