2020/03/02 肖敏捷の中国メモ:新型コロナウイルスによる中国経済へのダメージ、及び今後の見通し
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- カテゴリー: CHINA REPORT
今朝、テレビ東京の「モーニングサテライト」に出演させていただきました。緊急トークというかたちで、日米の金融政策や株式市場に精通する方々とご一緒に緊急トークに参加したが、新型コロナウイルスによる中国経済へのダメージ、及び今後の見通しについて、下記のようなコメントを述べました。ご参考になれば幸甚です。
2月のPMIをどう評価するのか?
2月の製造業PMIは35.7、非製造業PMIは29.6と、いずれもリーマンショックで記録した最悪記録を更新し、統計が始まって以来過去最低となった。ショッキングな数字であるのは確かで、新型肺炎による中国経済へのダメージがここまで深刻だったのか、これを受けて、市場では衝撃が走るかもしれない。
ただし、ある意味では、このような不都合な統計が発表されたことについて、ホットしたと言ったら怒られるかもしれないが、評価してもよい。なぜかというと、1月23日の武漢封鎖を契機に、ほぼ中国全土で、ヒト・モノ・カネの流れが断ち切られ、経済活動がショック死状態に陥ったにもかかわらず、製造業PMIはわずか50を下回るとか、都合のいい数字が発表されたら、むしろ、中国あるいはグローバル経済にとって不幸の始まりかもしれない。いずれにせよ、2月の製造業PMIはすでに中国景気のバックミラーとして受け止めるべきだ。
これからの見通しについてどう考えるのか?
しばらくは低空飛行が続くかもしれないが、どれくらいのスピードで回復してくるかが焦点であろう。リーマンショックと良く比べられるが、今回は、新型肺炎の拡大を防ぐため、中国政府が実質上の戒厳令を実施し、地方では、感染者数の抑制を最重要な課題として位置づけられてきたため、いろいろな地域で想定以上の厳しい制限措置が実施されてきた。言い換えると、経済を犠牲にしても、新型肺炎を徹底的に抑制する戦略だった。
一方、湖北省や武漢を除いて、感染者数の増加ペースが大幅に鈍化したことを受け、ショック状態に陥った経済をどう蘇らせるのか、いわゆる「経済を救う」ことが最優先課題として浮上してきた。その転換点は、2月21日に開催された共産党政治局会議だった。この会議では、新型肺炎の抑制について引き続き全力で取り組むと同時に、一刻も早く経済活動の正常化を推し進めるよう、共産党指導部の方針転換が行われた。これを受けて、中央省庁や地方政府は相次いで工場操業の再稼働を促す対策を発表し、中国経済がショック状態から少しずつ回復しつつあるのは実情だ
例えば、国家統計局の発表によると、2月25日時点、大企業の「復工率」(再稼働率)は78.9%、うち、大型企業が85.6%に達した。稼働率がどこまで下がったのか公表されていないため、この「復工率」はどのようなスピードで回復してきたのかは分からないが、悪い数字ではなさそうだ。共産党指導部がすべての決定権を握っているため、政策もいきなり左から右へ急転回するのが中国の特徴なので、工場の再稼働を妨げる様々な制限が次々と撤廃されていくだろう。
中国景気はV字回復を成し遂げることができるのか?
金融政策面では、預金準備率の引き下げ、貸出金利の引き下げなどに続き、財政政策面では、2020年の財政予算案について、財政赤字対名目GDP比を3%以上に引き上げられるなど、より拡張的な財政政策の実施が期待されている。ちなみに、この比率について、長年、3%を超えないよう、といった財政規律が守られ、アジア通貨危機やリーマンショックですら、3%を超えなかったと記憶している。したがって、財政と金融両面で景気を刺激するスタンスが鮮明化すれば、夏ごろ、V字回復が実現する可能性は否定できない。
ただし、二つの死角がある。一つは、雇用の受け皿となっている中小や民営企業が果たしてこの政策的な恩恵を受けることができるかどうかは疑問だ。リーマンショック後、公共事業などの恩恵で国有企業が再び勢いをつけ、民営企業が退場を余儀なくされる「国進民退」現象が起きたが、今回は、同じような事態が起きるかどうかが注目点だ。実際、ここ数年、米中貿易摩擦などの影響で大量の民意企業や中小企業が既に経営難に直面している中、新型肺炎が最後の一撃となり、倒産や廃業に追い込まれる民営企業などが急増する事態も免れないかもしれない。
もう一つの死角は外部環境だ。新型肺炎はすでにグローバル規模で拡大し、中でも、アメリカが中国に対し、入国制限などを実施している。こうした状況下、中国経済の大黒柱である外需は回復せず、中国経済は公共事業といった片肺飛行を続けざるをえない。
最後に、終息宣言がいつ発表されるのか、経済や社会秩序がいつ正常化に向かうのか、延期となった全人代がいつ開催されることになるのか、新しい開催日あたりは、おそらく一つの判断の目安となろう。
以上