2020/06/01 肖敏捷の中国メモ:中国経済を取り巻く二つの環境激変

新型コロナウイルスの影響で日中間のヒト・モノ・カネの流れが寸断されたり、滞ったりしている。自粛を口実に筆者も皆様へのメール送信をサボってきたが、61日を契機に徐々に執筆を再開させていただきます。中国経済に対する皆様の理解に少しでもお役に立つことができれば幸甚です。引き続き宜しくお願い申し上げます。 

(中国経済を取り巻く二つの環境激変)

ここ数年、構造改革の痛みが顕在化するに加え、米中貿易摩擦の激化で、中国経済の停滞感が強まっているのは実情だ。新型コロナウイルスの影響で、中国経済を取り巻く環境が一段と厳しくなってきている。具体的には、①外需について、需要と供給がいずれも深刻なダメージを受け、いつ平時モードに戻れるのかは全く予断ができない。②内需について、ほとんどの国や地域と同じく、巣籠に伴う需要の減退が発生したほか、雇用悪化に対応するセーフティネットの脆弱さも手伝って、個人消費が想定以上に冷え込んでしまう可能性が否定できない。

まず外需について、グローバル景気や物流の回復次第など、他力本願の部分が小さくない。11月の米大統領選挙に向けて、米中摩擦が貿易から政治、外交、軍事などの全面対立へとエスカレートする傾向を見せ始めているため、当分、どこが着地点なのかは読めない。そうすると、少なくとも年内、米中の応酬に一喜一憂せざるを得ないだろう。また、サプライチェーンの再構築など、長期的には構造的な変化が加速するかどうかも注目点だ。 

ただし、米中について悲観論一辺倒の中、ここ数十年間の米中関係をみると、対立の激化は妥協のためのカードにすぎないといった米中のしたたかさを念頭に置いたほうがいいかもしれない。 

(露天商経済を解禁する背景)

内需について、雇用悪化に起因する所得急減を放置すれば、社会秩序の安定を脅かすなど、様々なショックが生じかねない。したがって、先日開催された全人代では、経済成長率の達成というメンツを捨て、最低限の民生確保に軸足を置くなどの現実路線が打ち出された。これについて、二つの興味深いエピソードをご紹介する。一つは中国の失業率に関するものだ。政府の公式発表によると、3月の都市部の調査失業率が5.9%だと、2019年末の5.2%に比べてわずかな悪化ぶりに留まっている。 

しかし、中国のある証券会社が発表したレポートによると、新型コロナウイルスの影響で投資や消費などの主要経済指標が軒並み大幅な減少に比べて、失業率の低さは明らかに不自然で実際はアメリカ並みの高さではないかと指摘されている。もちろん、真偽は定かではないが、「露天商経済」を解禁するよう、李克強総理が呼びかけていることから、雇用がいかに悪化しているのかが伺われる。「露天商経済」とは、道端などで商品を販売したり屋台を開いたりする個人商売を指している。これまで、景観や衛生を損なうなどの名目で、大都市の目抜き通りなどでの露天商を厳禁するなど、露天商と都市管理部門のいたちごっこが繰り返されている。今回、政府が「露天商経済」を公式に認めた背景には、政府だけでは雇用創出が既に限界で、個人の自助努力に任せざるを得ない事情がある。 

したがって、新型コロナウイルスを契機に、中国の外需と内需を取り巻く環境が激変している。これは、中国の経済政策のみでなく、政治や外交の行方にも影響を及ぼす可能性が否定できない。新型コロナウイルスの蔓延がとりあえず沈静化に向かいつつあるが、これから、中国をめぐってグローバルの政治や経済は波乱万丈の展開になりそうだ。 

以上