2020/08/05 肖敏捷の中国メモ:十字路に立たされている中国経済

今朝、テレビ東京の「モーニングサテライト」に出演させていただきました。米中対立の激化と長期化に伴い、米中のデカップリング、そして、中国と世界の分断が果たして現実的となるのか。最近、中国が提唱している「内循環」は何を意味しているのかについて解説いたしました。最近、中国景気が回復に向かい、楽観論が台頭しつつあるが、今後、「内循環」をめぐる政策対応次第、内需の更なる拡大なのか、それとも鎖国体制への逆戻りなのか、中国経済が目指す方向性そのものの変化に留意する必要があると考えられます。 

(足元では回復に向かう中国景気)

最近、発表された一連の経済指標からみれば、コロナ危機でグローバル経済が未曽有のどん底に陥っている中、中国経済が率先して回復に向かっているように見える。例えば、第2四半期の実質GDP成長率がプラス成長に転じたり、製造業PMIも改善したりしている。また、上海株も絶好調までは行かないが、欧米や日本などに比べても、比較的堅調なパフォーマンスを見せている。足元では、中国景気に対する楽観論が広がりつつあるのは実情だ。

国内では、コロナ危機の鎮静化に伴い、ヒトの移動が再び活発化していることから、短期的には、中国景気が回復に向かっているのは疑う必要がなさそうだ。しかし、こういう楽観論とは裏腹に、構造的には、中国経済が1978年以来、最大の危機に直面していると言わざるを得ない。この危機を乗り越えることができるのか、乗り越えられなかった場合、中国経済がどのような道をたどっていくのか、年内、その明暗がくっきりとなってくるかもしれない。

(「内循環」が急速に脚光を浴びる理由)

その背景には、いうまでもなく米中対立の激化がある。これまでの貿易交渉と比べて、アメリカがハイテクから金融分野までの制裁、そして領事館の閉鎖や共産党政権そのものへの批判を強めたりするなど、コロナ危機を契機に、米中対立の本質がすっかり変貌してきた。アメリカ大統領選を控えている中、トランプ大統領であろうが、民主党の候補であるバイデン氏であろうが、対中強硬路線を貫くしかない。今後、どんなサプライズが起きても不思議ではないのは、米中対立に関する市場のコンセンサスだ。

これに対し、中国も一歩を引かない構えだ。730日に開催された共産党政治局会議では、持久戦を覚悟するとのメッセージが伝えられたことはその一つの証であろう。経済についていえば、最近、「内循環」という表現が急速に脚光を浴び始めている。サプライチェーンの構築という供給側から国内市場、とりわけ内陸や農村市場の拡大という需要側まですべて国内で完結するよう、といった狙いが込められている。米中対立の長期化で外部環境の悪化がますます深刻化するのみでなく、コロナ危機そのもの自体がいつ収束に向かうのか、まったく予断が許さない中、どこの国でも実際同じ対策を実施しているため、「内循環」はそれなりに理にかなっている現実路線だといえる。 

「内循環」だけでは中国経済が片肺飛行の恐れ

しかし、「内循環」は中国経済と世界経済とのつながりを断ち切り、計画経済という鎖国時代に逆戻りするのではないかとの懸念を高めていることも実情だ。米中対立が新冷戦といわれる予想もできない深刻な事態に突入すれば、鎖国まで行かなくても、改革開放で高成長を成し遂げてきた中国経済が今後自力で成長のけん引役を育成することができるのか、厳しい選択を迫られることになろう。

例えば、個人消費などの内需拡大を目指す「内循環」といっても、外需という呼び水がなければ、それは絵にかいた餅になりかねない。図表は、地方自治体別に貿易依存度と一人当たり名目GDPの相関を示しているが、上海や江蘇、浙江、広東といった中国を代表する高所得地域はいずれもグローバル経済の恩恵をもっとも享受してきた地域だ。内陸部の開発が持続成長に必要不可欠だが、人材や所得、自然環境などから勘案すれば、内陸部大開発が簡単に成功しないのは実証済みだ。