2020/09/29 肖敏捷の中国メモ:岐路に立たされる投資から消費への転換

今朝、テレビ東京の「ニュースモーニングサテライト」に出演させていただきました。足元では、新型コロナウイルスの蔓延が沈静化したことに伴い、個人消費などが回復の兆しを見せている。ただし、米中対立の激化を受け、中国が目指してきた投資から消費への転換が停滞する可能性が高くなってきました。コロナ後の中国経済がどこへ向かうのか、「プロの目」という6分間のコーナーでその方向性について述べてきました。ご参考になれば幸いです。

 

(投資か消費か、中国経済は再び岐路に直面)

101日から8日まで、国慶節や中秋節などを控え、中国は大型休暇に入る。例年では、春節(旧正月)、旧正月5月と10月の大型連休は、観光や飲食、娯楽、航空などレジャー関連業界は言うまでもなく、不動産販売や、乗用車、家電など耐久消費財の販売業界にとっても書き入れ時として知られているが、今年は、新型コロナウイルスの蔓延による外出制限で5月の大型連休が不発に終わった。10月からの大型連休について、観光地の入場制限が大幅に緩和されることもあって、旅行に出かける人が延べ数億人に達する見込みだ。

中国の友人のSNSを見たら、混雑を避けてすでに旅行に出かける人が多く、観光先の写真も次々とアップされている。新型コロナウイルスに対する警戒感が依然残っているが、巣籠のうっぷん晴らし(リベンジ消費)を兼ねて、今回の国慶節大型連休の間、個人消費が相当盛り上がり、乗用車販売など、中国の景気回復に一段と拍車をかける可能性が期待できそう。

ただし、トレンド的には、中国経済の減速基調が続き、米中対立の激化も長期化すると予想される中、個人消費の回復が本当に持続するのか、はなはだ疑問だ。マクロの観点から、コロナと米中対立を契機に、ここ数年、中国が目指してきた「投資から消費」への転換も停滞し、場合によって投資主導の成長モデルに逆戻りする可能性も否定できない。その理由は下記の通りだ。

 

2012年以降、投資から消費への転換がそれなりの成果)

まず、投資から消費への転換に関する進捗状況をチェックしてみよう。図表1は、中国の投資率(固定資本形成額/名目GDP総額)と消費率(民間消費額/名目GDP総額)の推移を示すものだ。2005年、投資率が消費率を上回るという異例な現象が起き、投資が中国経済の牽引役としての地位が確立された。しかし、不良債権など過剰投資の弊害に加え、過剰な生産能力を解消するため、中国が輸出攻勢をかけ、結果的に米中対立激化の禍根を残したと言わざるを得ない。

 

図表1 中国の投資率と消費率の推移


(出所)中国国家統計局

 

2012年以降、供給側構造改革をスローガンに、中国は過剰投資の抑制に動き出した。投資率が2013年にピークに低下し始めたことから、投資から消費への転換がそれなりの成果を上げたといえよう。固定資産投資と小売総額の前年比伸び率をみると、2015年になると逆転現象が起きたことが確認できる(図表2)。これを受け、中国経済の成長率が鈍化したものの、個人消費が経済成長のけん引役になれば、中国経済の持続成長に対する期待が高まってもおかしくない。

 

図表2 固定資産投資額と小売総額の前年比


(注)2020年は18

(出所)中国国家統計局

 

(米中対立で再び踏み始める投資のアクセル)

ただし、新型コロナウイルスの影響でこのシナリオが狂ってしまう可能性が出てきた。個人消費について、雇用や業績悪化で所得の減少が万国共通の現象で、中国でも低所得層が再び貧困層に転落する恐れも出てくるなど、ネガティブな材料が増えてくるのは実情だ。一方、投資について、インフラ整備など不況下の公共投資拡大がいつものパターンだが、米中対立、とりわけ、半導体などのハイテクに関する対中輸出規制の強化を受け、中国では、国産能力の強化を目指し、半導体チップなどに関する設備投資のアクセルを踏み始めている。報道によると、20201月~8月までの間、半導体チップメーカーが新たに1万社増えた。

さらに、「新基建」(新型インフラ投資)を合言葉に、5G関連投資も加速している。道路や鉄道など旧来型インフラ投資なら、政府や中国人民銀行が難色を示すかもしれないが、ハイテク投資といえば、国威鷹揚という空気が蔓延する中、いけいけどんどんの局面になりやすい。20201-8月の固定資産投資額と小売総額の伸び率が再び接近しているため、再逆転現象(固定資産投資が再び小売総額を上回る)が起きるかどうかが注目点だ。

こうした中、中国では、ハイテク投資ブームに警鐘を鳴らす声が出始めている。例えば、前財政部長の楼継偉氏は5G投資の急拡大に対し、経済活動の中、5Gを応用できる場面がまだ少なく、5G投資及び運営コストの増大を懸念すべきだと冷静に分析しいている。

 

(「五中全会」を契機に投資から消費への軌道に戻れるのか)

1026日に開催される予定の共産党「五中全会」では、第14次五か年計画(2021年~2025年)の方向性が議論される見通しだ。「外循環」という輸出に加え、「内循環」という内需拡大へのシフトを一段と加速させるのがコンセンサスだ。内需拡大について、投資ではなく、個人消費をけん引役に育成するため、所得の再分配、都市化の進展を加速させる戸籍制度改革、不動産価格の抑制など、雇用や可処分所得の改善に寄与する対策の実施が不可欠だ。いずれもこれまで再三強調されてきた課題だが、これに関する改革が遅々として進まないのも事実だ。米中対立という「外圧」を受け、中国経済は本当に個人消費主導の成長路線にたどり着くことができるのか、コロナ後の景気回復だけでなく、中国経済の構造転換も再び優先順位の高い政策課題となろう。