2020/11/24 肖敏捷の中国メモ:中国の「所有制の壁」に注目
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- カテゴリー: CHINA REPORT
今朝、テレビ東京の「ニュースモーニングサテライト」に出演させていただきました。バイデン新政権の対中政策がどうなるのか、中国の景気回復が本物なのか、大半の皆さんが関心を持っている話題について若干触れたものの、中国国内、とりわけ、中国経済の中で最も活力のある民営企業が直面している「所有制の壁」という課題をクローズアップしました。なぜかというと、アメリカの対中政策より、「所有制の壁」がこれからの中国経済にとって死活にかかわる問題だと言っても過言ではないからだ。ご参考になれば幸甚です。
(足元の中国景気)
新型コロナウィルスのダメージでグローバル経済が不景気のどん底に陥った中、中国経済がいち早く立ち直りを見せている。おそらく2020年通年では数少ないプラス成長を記録する国であろう。日中間の行き来が途絶え、中国景気が本当に立ち直っているのか、現場感覚が欠けている筆者は断言できない。
しかし、日本企業が発表した7-9月の決算発表をみると、乗用車、工作機械、電子部品、消費財など、中国の景気回復を受けているセクターが少なくないのも実情だ。2008年秋のリーマンショック後、中国政府が打ち出した4兆元景気刺激策を契機に、「中国特需」という表現が流行っていたが、今回は、新型コロナウィルスが蔓延する前、米中貿易摩擦の激化で中国景気の悪化を懸念する声が高まったり、中国から撤退する外資系企業が増えたりするなど、中国悲観論が一色だったが、足元では、再び「中国需要」に頼る傾向がみられる。リーマンショック後のデジャブを覚えてしまう。
(2021年の中国経済見通し)
中国も例外ではないが、グローバル経済を展望するにあたって、一番大きな前提条件は新型コロナウィルスが収束に向かうかどうかにかかっている。この大前提をクリアしたうえで、来年の中国経済を展望するにあたって、①米中関係、②中国国内の政治動向、この二つが注目すべき材料であろう。
まず、米中関係について、バイデン新政権になっても、米中関係が劇的に好転しないと見たほうが無難だろう。むしろ、民主党政権はTPPを復活させ、より広範囲で包括的な中国包囲網を構築する可能性も否定できない。しかし、トランプ政権時代に比べて米中関係がこれ以上劇的に悪化することも考え難い。したがって、これからの米中関係について楽観はしないが、夜中、トランプ氏のツイッター投稿を心配し、眠れないほど神経質になる必要はなさそうだ。
また、中国国内に目を向けると、2021年は、中国共産党が設立100周年に当たる年だ。2022年に共産党「二十大」開催の前年だ。これについて、ほとんどの日本人にとってぴんと来ない話かもしれないが、政治が経済を決める中国では、猛烈に意識される重大なイベントだ。なぜかというと、100周年に当たり、共産党が政治や経済を支配するその正当性をアピールするため、おそらく一番分かりやすい方法は景気を良くすることだろう。「二十大」では、習近平総書記は三期目の任期を任せられるのかが注目点だ。足元の政治情勢からおそらく順当すると考えられるが、経済情勢が極めて良好な雰囲気の中、これらの政治イベントを迎えるのが中国の習わしなので、政治的に景気刺激に傾く可能性が高い。加えて、第14次五か年計画の初年度に当たり、5%前後の成長率を目指す展開となろう。
(「所有制の壁」という中国リスクが再び)
ただし、来年以降の中国経済を語る際、経済成長率の高低はもちろん大事だが、より重要なのは誰が中国の経済成長を牽引することだ。景気をけん引するのは、消費か投資か、あるいは外需か内需かといった議論が一般的だが、中国では、国有企業か民営企業かといったより根の深い問題が根底にある。リーマンショック後、「国進民退」という現象が起きたが、足元では、「所有制の壁」という問題が再び深刻化の兆しを見せている。
ご存知の通り、中国は社会主義公有制を原則とする国だ。これまでは、国有企業が主導的、民営企業が補完的な役割を果たしているに過ぎない。しかし、経済的には、この垣根がどんどんあいまいとなり、エネルギーや鉄鋼などの産業を除いて、どれが国有、どれが民営なのか、判別がつかなくなるほど複雑だ。とりわけ、ITやデジタルの分野について、民営企業が補完どころか、圧倒的な支配力を発揮するようになっている。例えば、中国版のGAFAMに相当するBATあるいはATMはそのような存在だ。残念ながら、こういった民間企業がどれだけの存在感を占めても、「所有制の壁」を乗り越えることができず、あるいは跳ね返されてくる。
第十四次五か年計画の一つのキーワードは「創新」(イノベーション)だ。しかし、重厚長大型の国有企業に比べて、イノベーションの主役は明らかに民営企業だ。しかし、様々な分野で民営企業の影響が強まれば強まるほど、公有制を中心とする既存の制度やシステムとの摩擦が増えてくる。日増しに成長してくる民営企業とどう付き合うのか、当局にとっても頭の痛い問題だ。最近、アントの上場が突然中止に追い込まれことから、改めてこのジレンマの深刻さを浮き彫りにさせた。
イノベーションを加速させながら、公有制を堅持する一党独裁の正当性を維持していく。この「所有制の壁」が存在する限り、民営企業がより積極的で事業を拡大したり、市場参入したりすることをためらってしまう。短期的に中国の景気サイクルを注視するのは大事かもしれないが、長期的には誰が中国経済を牽引するのかといった構造問題にも目を配るべきだ。