2021/03/05 肖敏捷の中国メモ:全人代、内需拡大の号砲になるか?

今朝、テレビ東京の「ニュースモーニングサテライト」に出演させていただきました。今日の10時(東京時間)に開幕する中国の全人代についてコメントしました。経済成長率見通しに関する予想が瞬間的に外れる可能性はあるが(笑)、ご参考になれば幸甚です。

 

(2035年までに年平均4%台の成長を目指す)

3月5日から、中国の全人代が開幕する。昨年、コロナウイルスの影響で5月に変更するなど異例な開催となったが、今年は、慣例通りに3月5日に開幕できたことは、中国がいち早くポストコロナ、あるいは正常化の道を歩み始めたといえる。  

正常化と言えば、まず、今日の開幕式で行われる「政府工作活動報告」の中では、李克強総理は、2021年の経済成長率目標に言及するかどうかが一つの注目点であろう。昨年の開幕式では、成長率目標の発表が見送られた。これについて、中国では、目標を公表すべきという声がある一方、コロナを契機に、経済成長率目標の発表を廃止すべきとの声もある。

確かに、前年同期の比較ベースを考えると、今年の経済成長率が相当高く(IMF及び民間の金融機関の中では8%以上との予想が多い)、来年はまた鈍化するなど、しばらく不安定な動きとなりやすいので、どの水準に目標を合わせるべきなのか、難しいかもしれない。したがって、単年度の経済成長率目標より、今回の全人代のもう一つの目玉である第十四次五か年計画及び2035年までの中長期計画に関する議論のほうが注目に値するかもしれない。また、電気自動車などの需要を刺激する新しい補助金政策があるかどうかも市場関係者が期待している。

第十四次五か年計画(2021年~2025年)及び2035年までの中長期計画について、その骨組みあるいは方向性について、昨年10月末に開催された共産党中央委員会の「五中全会」ではすでに決定された。公表された内容をみると、イノベーションの促進、サプライチェーンの確保など米中対立の長期化を想定する対策のほかに、2035年までに、一人当たりGDPが中等レベルの先進国と肩を並べるなどの目標も打ち出された。中国の習近平国家主席は2035年までに2020年に比べて経済規模を2倍にすることを宣言した。この目標について、中国政府の関係者は今後15年間、年平均4.73%の成長が必要だと指摘している。したがって、今後、中国経済の成長率が4~5%前後で推移するのは標準シナリオだろう。

 

(外需環境悪化の長期化で内需拡大に本腰)

一方、五か年計画及び中長期計画のなかでは、内需、とりわけ個人消費の拡大が改めて強調されている。決してサプライズや新味がある話とは思わないが、この課題に対する関係者の危機意識が急速に高まっているのは実情だ。例えば、中国の大手自動車メーカー「吉利」の経営者である李書福氏は、中国企業にとって先進国市場の参入がますます難しくなり、従来の輸出依存型成長モデルが限界に達し、内需拡大にもっと本腰入れなければならないと危機感を表している。

個人消費の拡大は、雇用や所得の改善を継続させることが不可欠だ。しかし、政府が個人消費の拡大を再三強調している裏返しとして、個人消費が期待以上に拡大せず、あるいは伸び悩んでいるのが実情ではないかと推察できる。その最大の阻害要因は何か?最近、中国国内では、不動産価格の高騰による個人消費への影響を懸念する声が高まっている。

 

(個人消費を圧迫する不動産バブル)

中国の上海易居不動産研究所が発表した2020年の主要都市の住宅価格と年収の倍率だ。中国の赤いシリコンバレーと言われる深圳が43.5倍、北京が41.7倍、上海が36.1倍などとなっている。ちなみに、この研究所によると東京は14.7倍だ。異常ともいえるこの倍率を前に、若者たちが住宅ローンを返済するため、ほかの消費支出を削らざるを得ない。例えば、消費性向(消費支出/可処分所得)の推移をみると、2013年と比べて2019年の全国平均や北京、上海の消費性向がいずれも低下しているが、住宅価格の年収倍率が高い北京や上海の低下ぶりが顕著となっている。

全人代が開幕直前、中国の銀行保険監督管理委員会の郭樹清主席は記者会見で、投機目的の住宅購入がかなり多く、不動産市場の金融化やバブル化の傾向が強まっているため、中国の金融システムにとって大きな潜在リスクだと警鐘を鳴らしている。

一方、2019年と2020年、固定資産投資額に占める不動産開発投資額の比率が再び大きく上昇したことから、不動産開発が既に中国の経済成長のけん引役となっている。不動産バブルが崩壊すれば金融システム及び実体経済へのダメージも計り知れないので、不動産バブルをどうソフトランディングさせるのか、その難しさがどんどん増していると言わざるを得ない。